彩星学舎の理念

彩星学舎の活動理念は「学び」のコミュニティーの創出です。決して「生徒たちの」ためだけのものではありません。なぜ彩星学舎は、「生徒のための」ではなく、あえて「学びのコミュニティー」という視点に固執するのでしょうか。それは、彩星学舎が問題の原因を個人に還元するという立場をとらないからです。

たとえば、問題の原因を個人に還元するということは、つまり、何か問題が起こったときに、そこには問題を起した「困った子」がいるという考え方をするということです。知的にしろ、身体にしろ、精神にしろ、何かしら障害を抱えている人がいます。人とコミュニケーションをとることがうまくない人がいます。そうした人たちと付き合おうとすると、現在の社会の価値判断からは「問題だ」とされるような、付き合いの困難さが生じてきます。「言ったことが理解されない」、「体調を崩して休みがちだ」、「約束が守られない」、「返事をしない」など、こうした事態は、合理的に効率よくものごとを進めようとするときの障害になります。問題を個人に還元する考え方からすると、「言ったことが理解されない」人や、「体調を崩して休みがち」な人、「約束を守れない」人や、「返事をしない」人など、その人たちのなかに「問題」とされる原因が存在していることになります。そして、いつしかその人たちを「困った子」としてしか見なくなります。その子が「困った子」である以上、その子をなんとかして治療してやろう、どうにかして矯正してやろう、と周囲の人たちは考えはじめます。しかし、「困った子」の烙印を押され、「困った子」として扱われる状況が長く続くと、その子自身の自尊心(プライド)は著しく傷つけられていきます。あるものは「どうせ僕は何をしてもだめだから」と無気力傾向を示すようになります。またあるものは、逆に反発を募らせ、「どうせ私がやることは悪いことなのだ」と開き直って、悪いことをして周囲の気を引くようになります。いずれにしても「困った子」を特定して、その子だけをなんとかしようとしてみても、あまりよい結果を得ることはできません。その子にしてみれば、問題をひとりで背負わされるわけですから、最悪、何かをしようとすればするほどかえって駄目な自己イメージを増幅させてしまうという結果になりかねません。

では、「学びのコミュニティー」という視点をとると、何がちがうのでしょうか。そこからは何が見えてくるのでしょうか。この場合、何かしら問題が発生したときには、問題の原因を個人に還元するという考え方をとりません。すなわち、問題を起した「困った子」がいるという考え方をとらないということです。では、いったいどのような考え方をするのでしょうか。ここでは、「困った子」がいるという認識ではなく、「困っている」状態がそこにあるという認識をすることからすべてがはじまります。たとえば、私(親、スタッフ)とその子との関係の間で問題が生じたとします。その場合、何事かに「困っている」のは、相手であるその子であるということになります。しかし、また、「困っている」のはなにもその子だけではありません。当の私(親、スタッフ)自身も「困っている」わけです。こうした考え方をとると、問題の原因は、生徒個人のなかにあるのでもなく、私(親、スタッフ)のなかだけにあるのでもなくなります。問題の原因は、お互いの関わり方のなかに存在しているという認識に変化します。その場合、問題とされる現象は、一方的に生徒が変われば解決するわけでも、逆に私(親、スタッフ)が一方的に変われば解決するわけでもない、ということになります。

では、そのような認識にたったうえで、いったい何をどうすればよいのでしょうか。そこではまず、その子がその場に関わっているときの条件を明らかにする必要があります。「言ったことが理解されない」というのであれば、「言ったことが理解されない」という条件のなかで、ではいったい何ができるかを考えていく必要があります。決して、問題の原因を生徒個人に還元して、その子を治療矯正すべきだと考えてはいけません。また、私(親、スタッフ)がなにを問題(障害)だと思い込んでいるのかを明らかにしていくことも必要になります。そこに問題(障害)があるのであれば、それは誰にとっての問題(障害)で、なぜそれを私(親、スタッフ)は問題(障害)だと考えるのか。これらを明らかにしていく必要があります。

そのうえで、その問題(障害)は克服すべき問題(障害)ではなく与えられた条件である、というところから問題の対策をはじめなくてはなりません。それはとりもなおさず、その子と私(親、スタッフ)の関係が「問題」を「問題でなくす」とろこまで変容させることができるかどうかにかかっている、ということを意味しています。その場合、時間をかけて問題への対策を実践し続けるという態度が重要になってきます。ここでは「問題」が解消されるとういう過程(プロセス)が重視されています。「困った」状態の解消は、そこに関わっているすべての当事者の「困っている」状態の解消のことを意味することになります。問題の原因探しが終わった途端に、すべてが解決したように思い込んでしまう還元主義の立場とは、この点で大きく異なります。

近代的な個人主義が中途半端なかたちでしか定着しなかった現代にあって、その孤独に耐え切れないことから引き起こされる事件がますます増加しています。現代社会では、問題の原因は問題を起した個人のなかに存在していると認識されています。したがって、何か問題が起こったときには、人々は原因究明にやっきになります。そして、その原因探しが誰かの個人の問題であると確定し終えた瞬間に、妙な安堵感を覚えすべてが解決したと錯覚してしまいます。「困っている」状態は何ひとつ解決していないにもかかわらずに、です。

彩星学舎は創立以来、20年という歳月をかけて、実際の活動のなかで私たちの理念を鍛え上げてきました。これからも彩星学舎は、「問題」が解消される過程(プロセス)に重点をおきながら、「学びのコミュニティー」実現を目指し、精進していきたいと考えます。


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